基礎化学論文を読むブログ

基礎化学の論文を紹介する自分のための自己満サイトです.光化学,分光学,物理化学が多いです.

沖縄科学技術大学院大学のリサーチインターンシップに参加する話

沖縄科学技術大学院大学(OIST)

沖縄に日本最高の大学院大学があります.

沖縄科学技術大学院大学です.

Nature Index正規化ランキングなどの,研究規模に応じた質の高い論文生産力という面で見れば,今後日本では圧勝だと思われます.

www.oist.jp

 

OISTの何が素晴らしいかはぜひ自ら調べて欲しいのですが,主なポイントを挙げておきます.

  • 年間300万円の給付奨学金(うち60万円は学費用)
  • 多彩な研究サポート(テクニカルスタッフが大量にいる)
  • 豊富なPIへのサポート(教授が事務仕事に奔走しなくてよい)
  • 研究スタッフ,事務スタッフの多さ
  • 国際的な環境(80%以上が外国人学生)
  • 超綺麗な海が目の前にある

はい.素晴らしいです.

文句があるとすれば,

  • 暑い
  • 湿度高くて部屋がカビる
  • まだ規模が小さく分野が偏っている
  • 学生を取らない高齢なPIが結構いる*1
  • 大学の近くに飲食店やスーパーが無い
  • 沖縄は車がないときつい
  • 学食の量がすくねえ!!
  • ゴミが出ない学食の選択肢が少ない(お弁当は沢山種類があるけどゴミ出したくない...)

 くらいですかね(笑)

自分のやりたい研究をやっている先生がいるならば,この大学は最高の選択肢となると思います.

OISTリサーチインターンシップとは

そんな素晴らしいOISTで研究を体験できる機会があります.それがOISTリサーチインターンシップです.

希望する研究室でインターンシップ手当を受給しながら2~6ヶ月間実習ができるプログラムです。インターンの開始日・終了日も自由に選択できます。 最先端機器が完備された環境で、教員の指導のもと研究活動に取り組むことが可能です。本学博士課程の授業を聴講することができます。また、様々な国や地域から集まった世界トップレベルの教授・研究者・学生とも研究分野を問わず交流する機会もあります。国際的な環境の下で、研究のみならず英語でのコミュニケーション能力の向上も期待できます。 あなたが将来、科学者として世界で活躍するための環境が”ここ”にはあります。 その一歩を、OISTから踏み出してみませんか?

admissions.oist.jp

 

神ですか?

 

  • 往復航空券 ‐ 在籍大学等の所在地から本学キャンパスまでの1回分の単純往復航空券を支給します。出発日は、インターンシップ期間開始日にできるだけ近い日に設定されます。また、航空券はOISTにより手配されます。
  • 実習手当 - 日額2,400円(土日祝日を除く)
  • キャンパス内外の滞在先住居
  • 旅行保険(海外からの場合)
  • 住民登録
  • ビザ取得

神ですね.

ほとんどお金がかからないのに,素晴らしい研究環境を体験できるのです.これは応募しない手はない.

とは言え,日本の大学生・大学院生で2か月以上の休暇を作るのは少し難しいと思います.そこは頑張るしかないですね.自分の場合は,修士1年の間にある程度の研究成果が出ているので,修士2年で半年間インターンをしていてもギリギリ修士論文は書けるだろうと考えているところです.また,修士2年で授業を全く取らなくて良いように履修をしました.さらに,OISTを受験して受かったら,今の大学の修士課程は退学しようと思っているところです*2

 

ちなみに,リサーチインターンシップは1か月でも受け入れてくれる場合があるようです.実際に1か月しか滞在しない人に会いました.そのため,1か月くらいしか時間が捻出できなくても,応募してみるべきだと個人的には思います.また,ラボ側の都合で1か月になることなどもあるようです.

 

あと,これは表では言われていない重要情報なのですが,リサーチインターンシップには2つの種類があります.一つは大学側(OISTではGraduate School, 通称GSと呼ぶ)がお金を出すもの,もう一つはユニット側がお金を出すものです.選考方法に差はありませんが(たぶん),ユニット側がお金を出す場合は,そのユニットで合格する人数が増えることになります(たぶん).そのため,後者は連絡を取ったりユニット訪問をしたりすると,合格する確率がかなり高くなると思います.もちろんユニットの財政状況によりますから,GS側の予算からしインターンを取らないユニットも結構あると思います.

ちなみに,前者の場合でも,GSの人が連絡を取っておくのは効果的だと言っていました.千以上ある(多分)応募の中から選ぶのですから,(やばい人じゃないと)知られているというのは重要そうです.

 

OISTに行きたくなった理由

そもそも,なぜ私がこのインターンシップへ応募したのかを書いておきます(自分語り).

もともとOIST自体は知っていて,あるユニットに興味があり,学部4年の秋ころに渋谷で開かれたOIST Cafeに勇気を出して行ってみました.これは,現在はオンラインイベントになっていますが,COVID-19前は対面での大学院説明会でした.

私が参加したときの対面大学院説明会の内容は,OISTの紹介,PhD学生のお話,OIST出身の理研研究者のお話,フリートークという感じでした.紹介してくれるOIST職員の方,学生の方,そしてそこに集まったOISTに興味がある学生達,すべての人の目がキラキラしていたのを覚えています.みんな科学が好きなんだなあと感じました.

このイベントに参加することで,OIST最高では!?と思い,さらにその場で科学が好きな友達をたくさん作ることができました.今はオンラインですが,是非皆さん参加してみてください.

admissions.oist.jp

その後,OISTサイエンスチャレンジに応募して,運よく採用されました.倍率は5倍程度と言われた気がします.

OISTサイエンスチャレンジは,OISTに一週間滞在して,研究体験・講演聴講・自分のサイエンスの育成を行うものだと認識しています(オンラインになったので分からないけど).

しかしCOVID-19のせいで,延期もしくは代替としてのユニット訪問という形になりました.

groups.oist.jp

ちなみに,これに採用されたのは運が良かっただけな気がしています.サイエンスチャレンジでは,テーマが示されてそれに絡めた自分の考える「研究の未来」を提案するものでしたが,自分は自分から見ても魅力的だと思うことを書けませんでした.

2020年のテーマは "Transcending Borders"

いや,ムズイって... 自分の場合は,ありがちな「分野間の壁を乗り越える」みたいなことを書きました.こういうのをパッと思いつくように,サイエンスに対する深い思考をしておくと良いと思います.

 

それでは,なぜそんな自分が採用されたか.それは,分野の偏り解消のためだろうと推測しています.

今(2020年)のOISTは,神経科学,生物学,物理学が強いらしい.特に神経科学はめっちゃすごいらしいです.そんな中で,化学のユニットは7ユニットほど(約80ユニット中)しかなく,7ユニットの中でも3ユニットはかなり生物寄りだと思われます.それゆえ,必然的にそういった分野の志望者が多く,化学で出した私は運よく採用されたのだと考えています.まあ,運も実力のうちということでよろしくお願いいたします!!

 

Path Wayについて

OISTリサーチインターンシップを行っている間に,OISTのPhD課程の入試を受けられる制度が最近スタートしました.

以下が条件です. 

  1. 研究指導教員とインターン生は、本学へ進学後、共に研究するという意欲と相互理解をもつこと。
  2. インターン生として1つのユニットに在籍している期間が修了時に2ヵ月以上あること(インターンシップに複数回参加した場合、1つのユニットに所属している期間が合算して2ヵ月以上であれば可)
  3. 博士課程出願の基本的な要件を満たしていること。
  4. パスウェイの選考プロセスはインターンシップ終了の少なくとも1ヵ月前に開始する必要がある。

 

一つずつ見ていくと...

  1. これが意味するのは,Path Wayを用いてOISTへ入学した場合,ラボローテーションを行った後の本配属では,リサーチインターンシップで所属したユニットに基本的には所属するということです.一応インターンで所属したユニット以外にも進むことはできるますが,あまり推奨されない雰囲気でした.まあOISTなのでやろうと思えば余裕でできるという雰囲気でした.実際にPass Wayで合格したけど,色々な(ポジティブ,ネガティブ,しょうがない)理由でインターンシップをしていたユニットには所属しない人はかなりたくさんいるっぽいです.
  2. 2か月以上いないと研究能力なんて判別できませんしね.しかし,超短期インターンシップでも,Path Wayは使わないけど推薦状を書いてもらうというのは可能でしょう.
  3. インターンに参加したからと言って,条件は緩和されないとのこと.
  4. Path Way使いたいなら,先生や大学側と話を済ませておくべきですね.

 

ちなみに,Path Wayを用いたときの面接官の数は2人らしいです.普通の入試だと4,5人.→4人に増えました

 

ここから私見――――――――――

今までは,リサーチインターンシップのほうがPhD課程よりも倍率が高かったため,インターンシップに参加した学生なら,余裕でPath Wayも通過できるという状況だったと思います.

しかし,COVID-19のおかげで(?),2020年のインターンシップはほぼ日本人のみで行われたようなので,今後はどうなっちゃうの!?と心配しています.

 

admissions.oist.jp

 

 

OISTを訪問した

リサーチインターンシップ出願期限の前の週に,OISTを訪問しました.正直言ってめちゃくちゃギリギリでした.OIST側へ連絡したのもギリギリで,限られた時間の中,OIST職員の方は最高の訪問の機会をオーガナイズしてくれました.こういう点でもOISTの素晴らしさが分かります.ギリギリすぎて本当にすいませんでした!!!!

 

準備したこと

  • 当然ですがPI(研究室主宰者)の論文を読みました.8報くらいは目を通し,3報は何度も何度も読み返しました.最新論文もしくはプレプリントはそのラボが今何やっているのかが分かるので,ちゃんとチェックしてください!!(プレプリントはチェックしてなかった)
  • 自分の研究を英語で話せるようにしておきました.特に求められていなくても,いつでも発表できるように英語で簡単目なスライドは作っておくべきだと思います.
  • OISTの実際の学生と現地で話せるように調整しました.ありがとうございました.
  • 研究室ホームページのチェック(メンバーの経歴など)
  • 質問事項のまとめ(結局忘れたけどね!)

 

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OISTの食堂

行きたいユニット(OISTでは研究室のことをユニットと呼ぶ)を訪問させて頂きました.ユニットの教授が,私の研究を英語でプレゼンしてくれと言ってきたので,準備していきました.そこまで練習する時間が取れなかったため,前日は非常に不安で,夜はあまり寝られず1時間ごとに起きてしまいました.そして,実際に訪問した際にもガチガチに緊張していたので,聞きたかった研究の細かい部分をあまり聞くことができなかったです.ぜひメモを用意して訪問してほしいです(笑)

とはいえ,自分が勝手に緊張していただけで,先生やポスドクの方は非常に優しく色々な話をしてくれました.沖縄には二郎系ラーメン屋は三軒あるが,ポスドクの人の舌にはあまり合わないとのことでした(笑) 大学生にとってこれは超重要情報ですよね!?

 

 

ユニットを訪問する際には,ぜひユニットのポスドクや学生の連絡先を頂いておくと良いと思います.志望理由書を書く際に,ユニットで行っていることと的外れなことを書いていないかを確認(添削)してもらうべきです.もちろん連絡先をもらわなくてもホームページに書いてあるとは思うので,聞くのを忘れてもゲットはできると思います.

 

観光もかねてぜひOISTを訪問してみてはいかがでしょうか.

このTwitterアカウントに連絡してみると面白いかもしれません(笑)

twitter.com

 

リサーチインターンシップへ応募した

ということでリサーチインターンシップに応募しました.応募するのに必要な書類は,推薦状,CV(履歴書),Motivation Letterみたいなやつ,写真,パスポートの写真(なければ他の証明書)でした.

 

推薦状は,現在の研究室の教授と,留学でお世話になった先生に書いてもらいました.リサーチインターンシップでは,推薦状は1枚必要と書いてありますが,何枚でも登録できるので,経歴が強くない自分は2人の先生にお願いしました.とはいえ,留学でお世話になった先生は文系の先生であり,研究能力について直接的な言及はできないだろうから,この推薦状がどれくらい役に立ったのかは分かりません.

推薦状も期限厳守なので,早めに先生にお願いしておかなければなりません.この推薦状は,先生が記入するフォームが存在しており,Wordやpdfファイルで提出するものではないらしいです.また,記入フォームに,学生の能力を評価するものが数項目あるようです.例えば,勉強や研究はどれくらいできるか?などがあるらしく,Top 5%であるなどと答えるようです.

 

またMotivation Letterには,3つの項目を含める必要がありました.

  • あなたの現在持っている専門知識や技能はOISTまたは希望するユニット(複数可)にどう合致するか.
  • OISTで何を達成したいか.
  • リサーチインターンシッププログラムは,あなたの全体的なキャリアプランと志望にどのように適合するか.

自分の場合は,行きたいユニットはほぼ一つだったので,内容はそのユニット関係だけに絞りました.具体的な研究の話をどれくらい書くか非常に悩みました.すなわち,こういうことをやりたい!と書く必要は絶対にあるのですが,その内容をどこまで詳しく書くべきかはかなり難しかったです.ふんわり書きすぎると,研究力がなさそうに思われるだろうし,詳細に書きすぎるとぼろが出る可能性もあるしで,大変難しいところです.ということで,結局のところ,達成したい目標と,それに対する方針を書く程度にしました.具体的なアプローチ方法は書かない,夢を語った内容でした.キャリアプランはOISTの博士課程入りたーいくらいしか書いていないです.たぶんもっと明確に書くべきなのかも!?

 

実を言うと,Motivation Letterは提出期限4日前に書き始め,3日前に大幅に方針転換をしました.皆さんはこんなことないように,1ヶ月くらい前から書き始めましょうね...

そんなにギリギリに書いたのですが(ギリギリだからこそ?),色々な人に内容を見てもらいました.先生,研究室の後輩×3,高校時代の友人×2,OISTの学生,ユニットのポスドクの方,合計8人です.ギリギリでも助けてくれる人はいるので,ぜひあきらめないで欲しいです.何とかなります(笑)

内容的には,海外大学院進学をした人のMotivation Letterの構成を真似しました.しかし,OISTの場合は,字数がかなり少ないことは非常に注意すべき点です.色々と盛り込めません.

内容完成後,ネイティブに確認してもらう時間はなかったので,Grammarlyと英語が得意な友人を活用して,文法ミスをできるだけ排除しました.その時の友人には本当に感謝しています.もしもそういった友人がいなければ,自分で良ければやりますよ(笑)

 

結果

応募期限が10月15日で,採用されたよ~というPIからの連絡が11月24日に来ました.世界で一番インターンシップに合格して喜んだと思います.リサーチインターンシップの選考プロセスには,「締切の約3カ月後に選考結果を通知します。」とありますが,一か月弱で連絡が来ることが多いようです(n=2ですが...).

今回合格できたのは,かなりコロナのおかげと言えてしまうと思います.2020年11月現在,日本は多くの国を入国拒否しており,今後の感染状況もあまり読めていないため,リサーチインターンシップでほとんど外国人を採用していないと思われます.私が志望したユニットは今年できた新しいユニットであり,日本人の志望者は私しかいなかったと思われます.運が良かったあああああああ.

リサーチインターンシップの倍率は30倍以上と聞いたことがあります(ウソかも).もちろん,ユニットごとの選考になるので,全体の倍率は30倍程度ですが,ユニットによっては倍率が低いところも存在します.神経科学系はやばいらしいですね.

 

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OISTリサーチインターンのプロセス

連絡が来たら,ユニットの事務の方と訪問時期を詰めたり,書類や保険を用意したりしてインターンシップ開始です!!

ちなみにインターンシップ開始時期は,ユニット側がOKを出せば非常に柔軟に変更できるます.実際に私は4月から開始のプログラムですが,2月開始でも良いと言われました.常識的な範囲内での開始時期変更は,大学側が制限することはほとんどないと思われます.また,ライフイベントによって1年延期などももしかしたら対応してくれるのではないかな?という印象です.それくらい事務の方もクリエイティブです.

 

他のリサーチインターンシップに参加した方の記事.必見!!

note.com

note.com

OIST在学生の方のブログです. OIST入試など必見です.このブログはこの方をパクりました.すいません.

sudachi.hateblo.jp

 

最後に

OISTリサーチインターンシップは非常に魅力的な選択肢です.もしも期間が捻出できれば,研究に集中できる素晴らしい南国の環境で数か月過ごしてみてはいかがでしょうか.

そして,なぜかあまり大声では言われていないのですが,まだまだOISTは大きくなるようです.現在Lab5(研究棟)建設中ですが,最低でもLab10以上作る予定らしいです.現在Lab4まである状態で80ユニットあるので,一つのLabに20ユニットくらい入ると計算すると,最終的に200ユニット以上の巨大研究機関になりそうですね.一つのユニットに10人以上,事務などで200人以上と考えると,3000人以上の巨大な村が出来上がりそうです.

カルテックカリフォルニア工科大学)のような「知の集積地」を沖縄に築き上げるのが目標です。カルテックは教員の数が300名で、OISTの目標としてはちょうど良いサイズなのです。
 OISTの周りに新たな産業に関する企業のサテライト施設を作り、そこで新しいプロダクトやサービスを生み出す。そしてGoogleFacebookのような変革を起こす企業を周囲に作っていきたい。
 現在、OISTは150件の特許取得があり、15のスタートアップ企業を支援しています。それをより加速させていく。
 今後は、OISTキャンパスのすぐ隣に新たなキャンパスシティーを作っていきます。そこでは革新的な企業を受け入れる「経済イノベーションゾーン」として、新たな産業を沖縄のために興そうと考えています。
 スタンフォード大学シリコンバレーの発展に寄与したように、投資家の方々にも来て頂き、OISTを投資活動の拠点とし、ハイテク産業も育成したいと考えています。

こんな感じに将来はめちゃくちゃでかくなるようです.行くなら今のうちじゃない??

 

2021年の3月頃からインターンシップ開始なので,そのうちインターンシップの内容を書こうと思います.

 質問などあれば,下のアカウントへどうぞ.

twitter.com

*1:この問題は結構重要です.OISTのPI募集の段階で年齢制限をかけていないのかもしれません.確かにそれは正しい部分もあるとは思いますが,それで学生を取らないのは無しではないでしょうか

*2:これはもう少し考えます.修士を卒業すると,OISTで履修するべき授業の単位が20から8単位(?)に減少するらしいです.それをメリットと考えるかどうか自分と相談すべきです.

11.SF-OLEDの磁場効果(Adv. Funct. Mater 26号 2016年)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.201601669

 

毎日自分の分野ではない論文をしっかり読んでまとめるのはかなり骨が折れます.

一言で言うと

 SF-OLEDのELとPLの磁場効果について調べ,MELとMPLのエミッタ濃度依存性や低い熱活性化エネルギー,デクスター機構によるエネルギー損失過程を示した.

Abstract

蛍光エミッタをドープした熱活性化遅延蛍光(TADF)化合物をベースにした新しいタイプの有機発光ダイオード(OLED)が開発され,動作安定性が向上し,内部量子効率が100%に近づくことがわかった.このようなTADF化合物をベースとした有機ELにおける磁気エレクトロルミネッセンス(MEL)と,蛍光エミッタをドープしたドナー・アクセプター(D-A)エキシプレックスをベースとした薄膜における磁気フォトルミネッセンス(MPL)を,様々な濃度で研究した.その結果,MELとMPLの両方の応答は,原始的なD-Aエキシプレックスホストブレンドの場合と比較して,かなり低い活性化エネルギーで熱活性化されることがわかった.さらに,MPLとMELの両方がエミッタ濃度の上昇とともに急激に減少することがわかった.このことは,エキシプレックスホストブレンド中の三重項電荷移動状態が,蛍光エミッタ分子の最も低い非発光性の三重項状態に直接減衰するという損失メカニズムが存在することを示している.

※AbstractをDeepL翻訳しただけです.

詳しい内容

OLEDにおいて,TADFはメタルフリーでRISCによる100%の内部量子効率を実現できるポテンシャルを持っているので注目されています.

今までに二種類の「内在性」と「外在性」の2種類のTADF材料があるとされています.「内在性」TADFは1分子内でTADFを実現するのに対し,後者は設計されたドナー(D)とアクセプター(A)分子が混合して電荷移動(CT)励起子を形成したエキシプレックス(EX)と呼ばれる機構を経て実現しています.

 

近年,新たな三重項状態の利用法として,蛍光分子をTADFベースの化合物に導入する方法(TADF+蛍光)が報告されています.これは,次世代のOLEDであり,TADF-assisted fluorescent OLEDs,もしくはsuper-fluorescent-OLEDS(SF-OLED),日本では第四世代OLEDとも呼ばれています.

 

SF-OLEDの原理としては,三重項CT励起子が逆項間交差(RISC)をして一重項CT励起子になります.一重項CT励起子から,フェルスター共鳴エネルギー移動機構(FRET)によってエネルギーが蛍光分子のS1状態に移動し,そこから蛍光が起こることで,より効率的な発光が可能となります.2014年には九州大学安達先生により,青,緑,黄,赤の発光バンドにおいて14~18%の外部量子効率が実現されています.

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NHK有機ELの研究動向」から引用

NHK 有機ELの研究動向

SF-OLEDの研究と並行して,TADFを用いた有機ELにおいて,外部磁界の影響を受けやすい2つのスピン混合過程が存在し,顕著な磁気効果(Magetic Field Effect, MFE)をもたらすことが報告されています.

これらの2つの経路は,ポーラロンペア種の超微細相互作用による上位のエネルギーとのスピン混合過程と,いわゆる「Δgメカニズム」を介したエキシプレックスに関連した低エネルギーのスピン混合過程であるそうです*1

 

TADF-OLEDに外部磁場を印加すると,2つのスピン混合過程の組み合わせによりEL発光が劇的に増強されます.MFEは,ELを増強するための代替的な方法であるだけでなく、有機半導体素子のスピンに関連した現象を調べるための有効なツールであるらしいです.SF-OLEDの励起子ダイナミクスは、FRETやデクスター機構 (DET)のような蛍光エミッタ分子によって誘起されるエネルギー移動過程を考慮すると, 原始的なTADF-OLEDデバイスよりも複雑なものであります.

この研究では,普通のTADFよりも機構が難しい,第四世代OLEDであるSF-OLED(TADF D-A exiciplex-based)の,磁気EL(MEL)と磁気発光(MPL)を調べました.

結果を簡単に言うと,MELとMPLの両方の応答は,エミッタの無いD-Aエキシプレックスホストの場合と比較して,かなり低い活性化エネルギーで熱活性化されることがわかりました.さらに,MPLとMELの両方がエミッタ濃度とともに急激に減少することがわかりました.このことは,エキシプレックスの三重項電荷移動状態が,蛍光分子の最も低い非発光性の三重項状態に,デクスター機構で移動して減衰するという損失メカニズムが存在することを示しています.

 

蛍光分子(エミッタ)がない場合の光励起による反応スキーム

①レーザーによるドナー分子の励起.

②ドナー分子から一重項エキシプレックス(1EX)への遷移.

③1EXからの蛍光(一重項状態は全スピン角運動量が0なのでMFEは無いため影響しない)

④ΔEstが小さいので1EXから三重項エキシプレックス(3EX)へと項間交差(ISC)して,3EXが溜まってくる.

⑤磁場によって3EXから1EXへと磁場による逆項間交差(M-RISC)が生じ,D-Aホスト分子による蛍光が強くなる.

 

蛍光分子(エミッタ)がある場合の光励起による反応スキーム

ない場合の反応スキームに加えて

・1EXから蛍光分子へのFRETが起こり,蛍光分子の量子収率が高いため効率的な蛍光が生じる.

・3EXから蛍光分子へのDETが起こり,蛍光分子の最低(励起)三重項状態(3S1)へと遷移する.3S1からは発光しないので,この経路はエネルギーのロスになる.DETは短距離のエネルギー移動であり,蛍光分子の濃度が高いとこのロスが大きくなる.

 

※最低励起三重項状態を3S1で表している論文を初めて読んだんですが... 普通にT1じゃないんですかね.基底三重項状態をT0と表すことは無いので,最初の数字で多重度を,Sは特に意味なく,1で励起状態の何番目かを表しているんでしょうかね.

 

MPLについて

  • 蛍光分子入りのホスト分子のMPLは,ホスト分子だけの時よりも弱い.
  • 蛍光分子入りの時の蛍光分子のMPLは,ホスト分子だけの時,蛍光分子だけの時よりも大きい.

このことから,1EXは3EXからのM-RISCによって増加し,1EXから蛍光分子のS1への効果的なFRETが起こっていることを示唆しています.また,TADFの活性化エネルギーも低下しており,これはエミッタ分子がエキシプレックスの近くにいるからだと考察しています.

 

MELについても同じような実験と考察を行っているのですが,書くのに疲れたので終わりにします(笑)

 

結局,3EXからのM-RISCが起きてFRETによってエミッタ分子にエネルギー移動するから効率良くなるよ!エミッタ分子の濃度を高くすると3EXから3S1へのDETが起きて損失起こるよ!というわけであります.

 

後で読む用資料

www.aist.go.jp

www.riken.jp

 

10.世界初の有機蓄光(Nature 550号 2017年)

安達先生は日本の化学界で最も有名な人のうちの一人だと思います.ノーベル賞候補にも名前が上がるほどです.カッコいいインタビューも色々なところに上がってるので,ぜひご覧ください(笑)

安達先生の主な業績としては熱活性化遅延蛍光(TADF)が上げられますが,その中で(中かは分かりませんが),有機蓄光の開発にも成功しています.

 

www.nature.com

 

一言で言うと

 

Abstract

闇で光る塗料として広く商業化された,長い持続的な発光(Long Persistent Luminescence, LPL)材料は,励起エネルギーを蓄えてゆっくりと光としてエネルギーを放出するものである.現在,ほとんどのLPL材料は,ユーロピウムとジスプロシウムをドープした酸化ストロンチウムアルミニウム(SrAl2O4)の無機系に基づいており,10時間以上の発光を示している.しかし,この系は製造時にレアメタルと1,000℃以上の高温を必要とし,SrAl2O4粉末による光散乱が塗料としての透明性を制限している.本研究では,レアメタルを含まず,作製が容易な2つの単純な有機分子からなる有機LPL(Organic LPL, OLPL)システムが,室温で1時間以上持続する発光を示すことを明らかにした.これまでのOLPLは,2光子イオン化に基づいており,高い励起強度と低温を必要としていました.これとは対照的に,今回のOLPLシステムは,長寿命の電荷分離状態の再結合による励起錯体(エキシプレックス)からの発光に基づいているが,標準的な白色LED光源で励起することができ,100℃以上の温度でも長時間の発光を発生させることができる.このOLPLシステムは,透明で可溶性があり,柔軟で色調整が可能であるため,大面積で柔軟性のある塗料,バイオマーカー,布,窓などでのOLPLの新しい応用が期待できる.さらに,このシステムにおける長寿命電荷分離の研究は,多種多様な有機半導体バイスの理解を深めることになるだろう.

 

詳しい内容

蓄光材料というものがあります.身の回りで言うと,時計の文字盤が一番良い例です.そのような現在使われている蓄光材料は無機材料でできています.その無機蓄光材料は,レアメタルを使用したり,高温焼成が必要だったり,散乱してしまったりと色々と改善すべき点があります.それらの点を解決できるものが,有機蓄光(OLPL)です.

 

今までもOLPLのような状態は考えられていましたが,実生活で用いることのできるような条件ではありませんでした.

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昔のOLPL

 

今回のOLPLは,蛍光や燐光などとは異なり,単純な励起状態だけでは議論できません.ドナー分子とアクセプター分子を組み合わせることにより,電荷移動状態を経た電荷分離状態が形成されることを利用しています.

今回は,ドナー分子として非常に安定なラジカルカチオンを形成できるN,N,N′,N′-tetramethylbenzidine (TMB),を,アクセプター分子として高い三重項エネルギーと無放射失活を抑制する硬いアモルファス相である2,8-bis(diphenylphosphoryl)dibenzo[b,d]thiophene (PPT)を用いることで,1時間以上のOLPLを実現しました.

このOLPLを作製するには,TMBとPPTをメルトキャスティング法と呼ばれる単に融解させて混ぜる方法が用いられています.TMBとPPTの割合によってかなり性能に差が出ることも分かっており,TMB:PPT=1:99が最も良い性能を示すとのことです.

 

このOLPLの具体的なメカニズムは以下の通りです.

①アクセプター分子が光を吸収し,電子がHOMOからLUMOに励起される.

②ドナー分子のHOMOからアクセプター分子のHOMOへ電子が渡される.このときドナー分子はラジカルカチオンになる.同時にアクセプター分子のLUMOに励起された電子が,他のアクセプター分子間に移動する.

電荷移動されていた電子が,だんだんとアクセプター分子のHOMOに落ちる.このとき発光する.

 

 

www.chem-station.com

9.効率100%で電気を光に変換する有機EL材料(Nat. Commun. 6号 2015年)

www.nature.com

 

九州大学シリーズですね(笑)

 

一言で言うと

ほぼゼロに近い三重項状態と一重項状態のエネルギーギャップを実現し,100%の蛍光収率のOLEDを開発した.

 

Abstract

これまで白金やイリジウム錯体などのレアメタルを含むエミッタを用いた高効率な有機発光ダイオードが開発されてきたが,より豊富な材料からなるエミッタの開発が急務となっている.ここでは,約100%の蛍光量子収率と,約100%の三重項励起状態から一重項励起状態へのアップコンバージョンを両立させた有機発光ダイオード用熱活性化遅延蛍光材料を紹介する.この材料は,電子供与性のジフェニルアミノカルバゾールと電子受容性のトリフェニルトリアジン部分を含んでいる.効果的な発光と三重項から一重項へのアップコンバージョンの間の典型的なトレードオフは,HOMOとLUMOの分布を微調整することによって克服された.室温での熱エネルギーよりも小さい,ほぼゼロに近い一重項-三重項エネルギーギャップにより,外部量子効率29.6%の有機発光ダイオードを実現した.アウトカップリングシートを用いた場合,外部量子効率41.5%が得られた.3,000cd m-2の高輝度でも外部量子効率は30.7%であった.

 

 

詳しい内容

二層の蛍光OLEDで量子効率1%が達成されたことから始まり,その効率と応用を探って長年研究が行われてきました.

ここで用語の確認をします.

量子収率と量子効率は厳密には異なるものとして用いられているようです.光反応などを議論する際には「量子効率」は使わないんじゃないかなあと思っております.

〇量子収率(Quantum Yield)

主に光反応で用いられる,IUPACにより明確に定義された値.

(量子収率)=(反応する分子の数)/(吸収された光子の数)

 

〇量子効率(Quantum Efficiency)

基本的には電子注入による発光デバイスに用いられていることが多い.

・内部量子効率(IQE, Internal Quantum Efficiency):注入されて再結合した電子の数に対して生み出された光子の割合

・外部量子効率(EQE, External EL Quantum Efficiency):内部量子効率が高くても,すべての光子が外部に取り出されるわけではない.デバイスにして実際に観測できる光子数を注入されて再結合した電子の数に対して評価している.

 

〇光取り出し効率(light out-coupling factor)

有機ELチップ内で生じた光子の数に対し,外部に出てくる光子の数の割合.

 

※参考

量子収率・量子効率について

内部量子効率・外部量子効率について

 

結局,外部量子効率(EQE)を上げるために色々な努力がなされているわけです.

それでは,その外部量子効率を決める要素を見ていきましょう.

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外部量子効率を決める要素

βは量子化学的に電子状態が一重項状態と三重項状態に分かれてしまうために,一重項状態のみを用いる場合には最大25%となってしまいますが,重原子などを用いて項間交差(ISC)を起こして一重項状態から三重項状態へすべての電子を移して発光させる,燐光OLEDを用いれば,理論的には外部量子効率100%を達成することができます.最近では燐光OLEDで外部量子効率20%を超える報告も頻繁に上がってきています.しかし,燐光OLEDは,白金やイリジウム錯体を必要とすることから入手の容易さやコスト面から問題となっています.

そこで前に紹介したTADFが,日本の安達先生により発明されて研究が行われています.しかし,TADFの原理的な部分での問題として,HOMO-LUMOの分離によって一重項状態と三重項状態のエネルギーギャップΔEstを小さくするので,S0とS1の間の振動子強度fが小さくなり,蛍光量子収率(PLQY)が小さくなってしまうというトレードオフがありました.

しかし,今回報告するDACT-Ⅱという物質では,ほとんどゼロのΔEstを持ちつつ,大きいfを持ち,結果として蛍光量子収率100%を実現しました.また,DACT-Ⅱでは,急速に一重項励起子と三重項状態励起子が発光で除去されるので,三重項-三重項消滅や一重項-三重項消滅が起こらず,典型的な輝度の増加に伴うEQEの大幅な低下(roll-offと呼ぶそうです)が抑えられることも重要です.

 

酸素の有無による過渡吸収スペクトルの変化から,発光が生じる電子状態を調べています.三重項状態は,酸素があるとクエンチされてしまうので,三重項を通る過程からの発光は弱く(無くなる)なります.DACT-Ⅱは蛍光と三重項を経由する遅延蛍光があることが分かりました.また,遅延蛍光には温度依存性があり,10 Kではほとんど観測できませんが,だんだんと温度を上げると強度が増大しました.これにより,遅延蛍光は熱活性化遅延蛍光(TADF)であると結論付けています.

 

DACT-ⅡのΔEstは9.0 meVという非常に小さいものでした.これをもとにボルツマン分布を考えてみると,今までの最高効率を示した物質の0.041に対して0.71という非常に高い値でした.これが非常に効率的なT1→S1へのアップコンバージョンの原因です.これゆえに,超低温でも高い効率の発光が行えます.

 

 

8.光/熱異性化を用いた分子スイッチの開発(JACS 141号 2019年)

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jacs.9b09646

 

この論文もケムステから興味がわいて読んでみました.

ケムステに載ってるのばっかり読んでる... まあケムステに載ってるのは重要な論文だからOKということで... ちなみにケムステに書いてあるURLは間違っているようですね.間違っているけどそっちも面白そうな論文です.

  

一言で言うと

光/熱異性化を用いた酸化特性の完全な分子スイッチングを,シンプルな炭化水素で実現した. 

 

Abstract

2つのジトリベンゾシクロヘプタトリエン単位を持つ高歪み炭化水素を,安定なジカチオン性色素と可逆的に相互変換するエレクトロクロミック*1な過密状態のエチレンとして設計した.その結果,強い立体反発により,2つの構造異性体(anti,anti-folded型とsyn,anti-folded型)が安定体として単離された.これらの異性体の光異性化と熱異性化はきれいに進行した.一方向の光異性化がanti,anti-からsyn,anti-へと起こり,一方向の熱異性化がsyn,anti-からanti,anti-へ起こった.両方の異性体が同じツイストジカチオンへの2電子酸化を受けるにもかかわらず,酸化電位が全く異なるため,完全に選択的な酸化が可能であることがわかった.このように,本研究で得られた多形態歪み炭化水素は,光・熱によってエレクトロクロミック特性の活性化と非活性化を切り替えることが可能であることがわかった.

  

詳しい内容

π共役分子は,適切な分子設計により様々な応用がされていますが,特に立体的に過密な分子や曲面多環芳香族炭化水素は,環状π共役分子と同様に注目されています.このような大きなゆがみのある分子は,普通の分子にはない特徴をもっているかもしれないのです.

先行研究で,ジベンゾシクロヘプタトリエンをベースとした,過密エチレン(Over Crowded Ethylense, OCEs)が報告されており,その中に光・熱異性化が起こるtetrabenzoheptafulvalene (TBHF)もあります.TBHFからはジカチオンが生成することがNMRとUV-visだけから確認されていますが,エレクトロクロミック特性については言及されていませんでした.二つの正電荷の近接性がジカチオンを不安定にしているので,適切なスペーサーを入れればその問題を解決できます.

 

本研究では,アントラキノジメタン(AQD)骨格を2つのジベンゾシクロヘプタトリエンに取り込んだ炭化水素ベースのOCEを2つ(1,2)設計しました.この分子は,光照射と加熱により2つ以上の構造異性体を与え,それらは電子供与性が異なり,カチオンを与えるために必要な印加電位が異なります.

これまでにもレドックス活性なOCEsは合成されており,酸化還元電位が光・熱によりスイッチングできたのですが,異性体が熱力学的に不安定で容易に最安定構造へと変化するため応用できなかったとのことです.

熱異性化と光異性化はNMRとUV-visで確認しています.エネルギーバリアも求めています.(1の場合)熱異性化は150℃付近で起こってくるようです.

 

酸化還元特性はサイクリックボルタンメトリーで測定しています.異性体によって,異なる酸化電位で酸化が進むため,選択的に片方だけを酸化させることができます.

 

最後に

光異性化,熱異性化を用いた分子スイッチは結構あるとは思いますが,この分子スイッチは炭素と水素だけでできているんですよね.めちゃくちゃカッコ良い...

 

メモ

ハモンドの仮説

xn--u8jvc1drbs0514cvfm43vv1giwx.net

 

 

www.chem-station.com

www.hokudai.ac.jp

*1:エレクトロクロミズム (electrochromism) とは、化学物質電荷を印加することにより、その光物性に可逆的変化が見られる現象のことである。エレクトロクロミズムを示す物質はエレクトロクロミック物質と呼ばれる。 Wikipediaより

7.高効率なフォトンアップコンバージョン(Angew. Chem. 2020年10月)

フォトンアップコンバージョンは,低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する夢のような技術です.

 

wileyのURLを貼り付けようとすると,ちゃんと表示できないのはなんでなんでしょう.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202012419

 

一言で言うと

可視光から紫外光を作り出すフォトンアップコンバージョンの効率が,今までの2倍の材料を開発した.

 

 Abstract

可視光を高効率で生成するためのトリプレット・トリプレット・アニヒレーション(三重項-三重項消滅,TTA)・フォトンアップコンバージョン(TTA-UC)に関する研究は数多く行われてきたが,可視光から紫外光への効率的なTTA-UCは,太陽電池や屋内での様々な用途に重要であるにもかかわらず,依然として挑戦的な課題となっている.本研究では,紫外発光体の1,4-ビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ナフタレン(TIPS-Nph)を発見し,可視光から紫外光への最高のTTA-UC効率を20.5%とすることに成功した.TIPS-Nphは,高い蛍光量子収率とTTAによる一重項生成効率を有するアクセプターである.TIPS-Nphは,紫外線を消光しない優れたドナーであるIr(C6)2(acac)で増感するのに十分な低三重項エネルギーレベルを有している.TIPS-NphとIr(C6)2(acac)を組み合わせることで,AM1.5ソーラシミュレータや室内LEDなどの弱い光源でも効率的な紫外光生成を実現した.

 

細かい内容

 フォトンアップコンバージョン(UC)の機構としては二光子吸収や多段階励起などのレーザー光など強い光が必要でした.しかし,近年2つの三重項分子を用いてUCを実現することが可能になりました.これにより,太陽光などのより弱い光でも用いることができるようになります.しかし,効率が悪いため実用化には至っていません(たぶん).

比較的高い光変換効率として5.2%,10.2%が実現されていますが,太陽光強度(数m W cm^(-2))よりもけた違いな強度の光(2 W cm^(-2))が必要でした.UCに必要な強度を落とすためには,効率を上げないと根本的に解決することは難しいため,良い発色団を探すことが重要です

今回の研究では,良いアクセプターである1,4-bis((triisopropylsilyl)ethynyl)naphtha- lene (TIPS-Nph)を発見しました.

 

 

アクセプター:TIPS-Nph,高い蛍光収率とTTAによる一重項状態生成確率が高い.ドナーによって良く励起される低いT1状態を持つ.

ドナー:Ir(C6)2(acac),(C6=coumarin 6, acac=acetylacetone),強い可視吸収を持つが紫外領域の吸収は弱いため,ドナーによるアクセプターからの発光の再吸収が少ない.

 

Ir(C6)2(acac)の鋭く強い配位子中心のπ-π*吸収帯は,アップコンバートされた紫外光の消光を避けるために有用であるそうです.

 

このUC材料は,1時間の光照射でも発光強度が変わらなかったので,安定な材料であると言えます.

また,光強度は1.1 m W cm^(-2)で良い.

 

 

疑問点:産業的に利用するためには液体状態では使いづらいので,固体UC材料が合求められている.固体材料の場合,全く新しいアプローチが必要になるかもしれないので,液体での研究をどこまで進めるべきなのだろうか.

 

 

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最後に

面白い論文を探すときに,日本語で検索しているので日本人の論文ばっかりになっています... これらの引用文献からどんどん派生していきたいです.

それにしても,光機能性材料の分野では九州大学が強いですね.九州大学シリーズになりそうです(笑)

 

ちなみに「フォトンアップコンバージョン」をグーグルで検索すると,研究不正で撤回された論文のプレスリリースが一番上に来てしまうという残念な状況です...

6.熱活性化遅延蛍光(Nature 492号 2012年)

www.nature.com

 

光化学の大家である安達千波矢先生の研究です.TADFと言えばこの論文ですかね.

有機ELは,蛍光材料→燐光材料→TADFと進化してきました.TADFの成果によって安達先生がノーベル賞を取ったら嬉しいですね.安達先生は,TADFを用いて大規模な大学発ベンチャーを創設しており,その面でも日本の科学に新しい風を吹かせた先生だといえるのではないでしょうか.

かっこいいインタビュー記事がいっぱいネット上に転がっているのでぜひ読んでみてください(笑)

 

一言で言うと

 一重項状態と三重項状態のエネルギーギャップが小さくなるように分子設計をして,熱活性化遅延蛍光を実現した.

Abstarct

 分子設計がもたらす柔軟性は,過去20年の間に多種多様な有機半導体の開発を加速させてきた.特に有機EL(OLED)用の材料開発では,初期の蛍光分子を用いたデバイスから燐光分子を用いたデバイスまで,大きな進歩が見られた.有機ELでは,電気的に注入された電荷キャリアが再結合して,1:3の比率で一重項および三重項励起子を形成する.燐光性金属-有機錯体の使用により,通常は非放射性の三重項励起子を利用して,全体的なエレクトロルミネッセンス効率を高めることができる.

この研究では,一重項励起状態と三重項励起状態の間のエネルギーギャップを分子設計により最小化した,金属を含まない有機エレクトロルミネッセンス分子を報告する.言い換えれば,これらの分子は一重項励起子と三重項励起子の両方を利用して蛍光を介して発光するため,90%を超える固有の蛍光効率と19%を超える非常に高い外部エレクトロルミネッセンス効率を実現しており,高効率の燐光ベースのOLEDで達成されたものに匹敵する.

 

Commentと詳しい内容

有機ELは,2つの電極間に有機薄膜を挟んだデバイス構造であり,直流電圧の印加により正孔(+)と電子(-)が電極から注入され,発光層で再結合して発光する自発光型のデバイスである。

有機ELの研究動向,NHK

正孔と電子を受け取った有機分子は,電荷再結合によって励起状態となる.励起状態は2つの状態に分けられ,蛍光を発しやすい一重項状態と無放射失活しやすい三重項状態である.また,その比率は1:3となる.

 

有機ELの歴史

第1世代:蛍光

 デメリット:加えた電荷の25%しか活用できていない.

第2世代:燐光

 メリット:重原子を加えることで三重項状態にISCさせて100%の効率を実現.

 デメリット:重原子のコストが高い.寿命が長い物を生み出せていない色もある.

第3世代:TADF

 状況:分子設計が自由.色純度,寿命には課題.

第4世代(TADF+蛍光),第2.5世代(TADF+燐光)も開発されている.

 

イントロ

一重項励起状態S1は三重項励起状態T1に対して,0.5~1.0 eV高いエネルギーを持っていいると考えられていました.しかし,今回の研究にで巧みな分子設計によって,そのエネルギーギャップ(ΔEst)を縮めることができることが分かりました.小さなエネルギーギャップは,逆項間交差(Reverse Inter System Crossing, RIRC)を可能にします.

このような励起状態は,空間的に分離されたドナーとアクセプターを含む系内での分子内電荷移動によって達成可能です.この分子の重要な点は,ΔEst ≦ 100 meVと競合する無放射失活に打ち勝つための10^6 / sの合理的な放射減衰速度にあります.この2つの特徴は競合するため,HOMOとLUMOのバランスが大事です.

さらにTADFの効率を上げるには,S0とS1の分子構造の変化を抑制して,無放射失活を抑える必要がある.ベンゾフェノン誘導体で示されているように,一般的には軌道の重なりが少ないと実質的に発光しないと考えられていました.そのため,これまではΔEstが小さい分子からは高い発光効率が得られないと考えられていましたが,ここではΔEstが小さい分子からも高い発光効率が得られることを実証しました.

 

分子設計

カルバゾールをドナー,ジシアノベンゼンを電子アクセプターとするカルバゾリルジシアノベンゼン(CDCB)をベースとした分子を設計しました.カルバゾール単位は立体障害によりジシアノベンゼン面から著しく歪んでいるため,この分子のHOMOとLUMOはそれぞれドナー部位とアクセプター部位に局在しており,小さなΔEstとなっています.CDCBを使うことの利点がDFT計算によって示されています.シアノ基は,無放射失活とS1,T1状態の構造変化の両方を抑制し,高い量子効率を実現します.逆に,カルバゾリル基の数や導入された置換基を変えることで,周辺基の電子供与能を変えることで,CDCBの発光波長を容易に調整することができます.

 

実際の発光がTADFによるものなのかは,酸素存在下での発光を見ることで確認しています.三重項状態は酸素によって消光されてしまいます.実際にCDCBの発光は酸素によって消光されました.

 

自然遷移軌道(NTO)の計算により,カルバゾール部位が最高被占NTOでドナー,ジシアノベンゼン部位が最低空NTOでアクセプターとなっていることを確認した.2つの部位が立体障害によって分かれているので,小さなΔEstが実現されている.

CDCBを使うと,なぜRISCが起こりやすいのかを説明しています.一重項状態と三重項状態の混合係数λは,スピン軌道相互作用エネルギーをΔEstで割ったものになります.スピン軌道相互作用は,重原子などを用いないとあまり大きくはできません.しかし,スピン軌道相互作用がめちゃくちゃ小さいわけでは無ければ,ΔEstを小さくすることで,混合係数λを大きくできるため,RISCが効率的に進行することになるのです.

 

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調べること:自然遷移軌道(NTO)

NTOは、対象の励起をある軌道から別の軌道への一電子励起として解釈し、それを可視化するのに最も適したものです。

AMS > リリースノート > ADF2016.101 | MOLSIS Inc.