基礎化学論文を読むブログ

基礎化学の論文を紹介する自分のための自己満サイトです.光化学,分光学,物理化学が多いです.

11.SF-OLEDの磁場効果(Adv. Funct. Mater 26号 2016年)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.201601669

 

毎日自分の分野ではない論文をしっかり読んでまとめるのはかなり骨が折れます.

一言で言うと

 SF-OLEDのELとPLの磁場効果について調べ,MELとMPLのエミッタ濃度依存性や低い熱活性化エネルギー,デクスター機構によるエネルギー損失過程を示した.

Abstract

蛍光エミッタをドープした熱活性化遅延蛍光(TADF)化合物をベースにした新しいタイプの有機発光ダイオード(OLED)が開発され,動作安定性が向上し,内部量子効率が100%に近づくことがわかった.このようなTADF化合物をベースとした有機ELにおける磁気エレクトロルミネッセンス(MEL)と,蛍光エミッタをドープしたドナー・アクセプター(D-A)エキシプレックスをベースとした薄膜における磁気フォトルミネッセンス(MPL)を,様々な濃度で研究した.その結果,MELとMPLの両方の応答は,原始的なD-Aエキシプレックスホストブレンドの場合と比較して,かなり低い活性化エネルギーで熱活性化されることがわかった.さらに,MPLとMELの両方がエミッタ濃度の上昇とともに急激に減少することがわかった.このことは,エキシプレックスホストブレンド中の三重項電荷移動状態が,蛍光エミッタ分子の最も低い非発光性の三重項状態に直接減衰するという損失メカニズムが存在することを示している.

※AbstractをDeepL翻訳しただけです.

詳しい内容

OLEDにおいて,TADFはメタルフリーでRISCによる100%の内部量子効率を実現できるポテンシャルを持っているので注目されています.

今までに二種類の「内在性」と「外在性」の2種類のTADF材料があるとされています.「内在性」TADFは1分子内でTADFを実現するのに対し,後者は設計されたドナー(D)とアクセプター(A)分子が混合して電荷移動(CT)励起子を形成したエキシプレックス(EX)と呼ばれる機構を経て実現しています.

 

近年,新たな三重項状態の利用法として,蛍光分子をTADFベースの化合物に導入する方法(TADF+蛍光)が報告されています.これは,次世代のOLEDであり,TADF-assisted fluorescent OLEDs,もしくはsuper-fluorescent-OLEDS(SF-OLED),日本では第四世代OLEDとも呼ばれています.

 

SF-OLEDの原理としては,三重項CT励起子が逆項間交差(RISC)をして一重項CT励起子になります.一重項CT励起子から,フェルスター共鳴エネルギー移動機構(FRET)によってエネルギーが蛍光分子のS1状態に移動し,そこから蛍光が起こることで,より効率的な発光が可能となります.2014年には九州大学安達先生により,青,緑,黄,赤の発光バンドにおいて14~18%の外部量子効率が実現されています.

f:id:photoculty:20210207105416p:plain

NHK有機ELの研究動向」から引用

NHK 有機ELの研究動向

SF-OLEDの研究と並行して,TADFを用いた有機ELにおいて,外部磁界の影響を受けやすい2つのスピン混合過程が存在し,顕著な磁気効果(Magetic Field Effect, MFE)をもたらすことが報告されています.

これらの2つの経路は,ポーラロンペア種の超微細相互作用による上位のエネルギーとのスピン混合過程と,いわゆる「Δgメカニズム」を介したエキシプレックスに関連した低エネルギーのスピン混合過程であるそうです*1

 

TADF-OLEDに外部磁場を印加すると,2つのスピン混合過程の組み合わせによりEL発光が劇的に増強されます.MFEは,ELを増強するための代替的な方法であるだけでなく、有機半導体素子のスピンに関連した現象を調べるための有効なツールであるらしいです.SF-OLEDの励起子ダイナミクスは、FRETやデクスター機構 (DET)のような蛍光エミッタ分子によって誘起されるエネルギー移動過程を考慮すると, 原始的なTADF-OLEDデバイスよりも複雑なものであります.

この研究では,普通のTADFよりも機構が難しい,第四世代OLEDであるSF-OLED(TADF D-A exiciplex-based)の,磁気EL(MEL)と磁気発光(MPL)を調べました.

結果を簡単に言うと,MELとMPLの両方の応答は,エミッタの無いD-Aエキシプレックスホストの場合と比較して,かなり低い活性化エネルギーで熱活性化されることがわかりました.さらに,MPLとMELの両方がエミッタ濃度とともに急激に減少することがわかりました.このことは,エキシプレックスの三重項電荷移動状態が,蛍光分子の最も低い非発光性の三重項状態に,デクスター機構で移動して減衰するという損失メカニズムが存在することを示しています.

 

蛍光分子(エミッタ)がない場合の光励起による反応スキーム

①レーザーによるドナー分子の励起.

②ドナー分子から一重項エキシプレックス(1EX)への遷移.

③1EXからの蛍光(一重項状態は全スピン角運動量が0なのでMFEは無いため影響しない)

④ΔEstが小さいので1EXから三重項エキシプレックス(3EX)へと項間交差(ISC)して,3EXが溜まってくる.

⑤磁場によって3EXから1EXへと磁場による逆項間交差(M-RISC)が生じ,D-Aホスト分子による蛍光が強くなる.

 

蛍光分子(エミッタ)がある場合の光励起による反応スキーム

ない場合の反応スキームに加えて

・1EXから蛍光分子へのFRETが起こり,蛍光分子の量子収率が高いため効率的な蛍光が生じる.

・3EXから蛍光分子へのDETが起こり,蛍光分子の最低(励起)三重項状態(3S1)へと遷移する.3S1からは発光しないので,この経路はエネルギーのロスになる.DETは短距離のエネルギー移動であり,蛍光分子の濃度が高いとこのロスが大きくなる.

 

※最低励起三重項状態を3S1で表している論文を初めて読んだんですが... 普通にT1じゃないんですかね.基底三重項状態をT0と表すことは無いので,最初の数字で多重度を,Sは特に意味なく,1で励起状態の何番目かを表しているんでしょうかね.

 

MPLについて

  • 蛍光分子入りのホスト分子のMPLは,ホスト分子だけの時よりも弱い.
  • 蛍光分子入りの時の蛍光分子のMPLは,ホスト分子だけの時,蛍光分子だけの時よりも大きい.

このことから,1EXは3EXからのM-RISCによって増加し,1EXから蛍光分子のS1への効果的なFRETが起こっていることを示唆しています.また,TADFの活性化エネルギーも低下しており,これはエミッタ分子がエキシプレックスの近くにいるからだと考察しています.

 

MELについても同じような実験と考察を行っているのですが,書くのに疲れたので終わりにします(笑)

 

結局,3EXからのM-RISCが起きてFRETによってエミッタ分子にエネルギー移動するから効率良くなるよ!エミッタ分子の濃度を高くすると3EXから3S1へのDETが起きて損失起こるよ!というわけであります.

 

後で読む用資料

www.aist.go.jp

www.riken.jp