基礎化学論文を読むブログ

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10.世界初の有機蓄光(Nature 550号 2017年)

安達先生は日本の化学界で最も有名な人のうちの一人だと思います.ノーベル賞候補にも名前が上がるほどです.カッコいいインタビューも色々なところに上がってるので,ぜひご覧ください(笑)

安達先生の主な業績としては熱活性化遅延蛍光(TADF)が上げられますが,その中で(中かは分かりませんが),有機蓄光の開発にも成功しています.

 

www.nature.com

 

一言で言うと

 

Abstract

闇で光る塗料として広く商業化された,長い持続的な発光(Long Persistent Luminescence, LPL)材料は,励起エネルギーを蓄えてゆっくりと光としてエネルギーを放出するものである.現在,ほとんどのLPL材料は,ユーロピウムとジスプロシウムをドープした酸化ストロンチウムアルミニウム(SrAl2O4)の無機系に基づいており,10時間以上の発光を示している.しかし,この系は製造時にレアメタルと1,000℃以上の高温を必要とし,SrAl2O4粉末による光散乱が塗料としての透明性を制限している.本研究では,レアメタルを含まず,作製が容易な2つの単純な有機分子からなる有機LPL(Organic LPL, OLPL)システムが,室温で1時間以上持続する発光を示すことを明らかにした.これまでのOLPLは,2光子イオン化に基づいており,高い励起強度と低温を必要としていました.これとは対照的に,今回のOLPLシステムは,長寿命の電荷分離状態の再結合による励起錯体(エキシプレックス)からの発光に基づいているが,標準的な白色LED光源で励起することができ,100℃以上の温度でも長時間の発光を発生させることができる.このOLPLシステムは,透明で可溶性があり,柔軟で色調整が可能であるため,大面積で柔軟性のある塗料,バイオマーカー,布,窓などでのOLPLの新しい応用が期待できる.さらに,このシステムにおける長寿命電荷分離の研究は,多種多様な有機半導体バイスの理解を深めることになるだろう.

 

詳しい内容

蓄光材料というものがあります.身の回りで言うと,時計の文字盤が一番良い例です.そのような現在使われている蓄光材料は無機材料でできています.その無機蓄光材料は,レアメタルを使用したり,高温焼成が必要だったり,散乱してしまったりと色々と改善すべき点があります.それらの点を解決できるものが,有機蓄光(OLPL)です.

 

今までもOLPLのような状態は考えられていましたが,実生活で用いることのできるような条件ではありませんでした.

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昔のOLPL

 

今回のOLPLは,蛍光や燐光などとは異なり,単純な励起状態だけでは議論できません.ドナー分子とアクセプター分子を組み合わせることにより,電荷移動状態を経た電荷分離状態が形成されることを利用しています.

今回は,ドナー分子として非常に安定なラジカルカチオンを形成できるN,N,N′,N′-tetramethylbenzidine (TMB),を,アクセプター分子として高い三重項エネルギーと無放射失活を抑制する硬いアモルファス相である2,8-bis(diphenylphosphoryl)dibenzo[b,d]thiophene (PPT)を用いることで,1時間以上のOLPLを実現しました.

このOLPLを作製するには,TMBとPPTをメルトキャスティング法と呼ばれる単に融解させて混ぜる方法が用いられています.TMBとPPTの割合によってかなり性能に差が出ることも分かっており,TMB:PPT=1:99が最も良い性能を示すとのことです.

 

このOLPLの具体的なメカニズムは以下の通りです.

①アクセプター分子が光を吸収し,電子がHOMOからLUMOに励起される.

②ドナー分子のHOMOからアクセプター分子のHOMOへ電子が渡される.このときドナー分子はラジカルカチオンになる.同時にアクセプター分子のLUMOに励起された電子が,他のアクセプター分子間に移動する.

電荷移動されていた電子が,だんだんとアクセプター分子のHOMOに落ちる.このとき発光する.

 

 

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